このサイトでは、2014年に起きた父親 ( 82歳 ) の胃穿孔における、腹痛 ⇒ 町医者 ⇒ 消化器専門の民間病院の [ CT検査 ] & 誤診 [ 腸管穿孔 ] ⇒ 市民病院にて腸管穿孔の為の緊急オペの結果、胃穿孔だった!といった経過と今後の課題を記します。
1. 町医者 ⇒ 一宮市 xY 病院
2014年1月7日は、私の父親にとって人生終盤の地獄の長時間となった。
年明け早々から腹部の異変が生じており、近所のホームドクターの I 内科に通院していた。
しかし、数日後の1月7日の朝6時頃に父に耐えきれないほどの腹痛が襲い、自力での通院が不可能の為、妻がI内科へ連れて行った。
I 内科の医院長は、内科の領域ではないと判断し、隣町の一宮市にある、消化器専門( 自称 )の xY 病院の院長宛ての紹介状を書いて頂き、
その紹介状を持参し妻が xY 病院へ連れて行った。
Y 病院は、私もこれまで、骨折の怪我(当時は整形外科もあったが、後に消化器メインの診療の体制となった)や
病気(気胸、大腸ポリープ)でお世話になった病院でもあり、また、高校の同級生が勤務する職場でもある。
その、xY 病院では、問診後に CT 撮影の検査が行われ、CT 画像から、「腸管穿孔」と院長の診断が下された。
そして、患者・家族への病状の説明が、下記のメモをもとになされた。
図1.xY 病院の院長直筆の診断メモ。 【画像をクリックすると、図は拡大されます】
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★ 穿孔とは:
食道、胃、十二指腸における孔、すなわち、上部消化管穿孔の場合は,細菌の関与が高度である症例の頻度が多くないことから、
保存的治療と外科的治療との選択が焦点となるのが臨床である。
一方,大腸穿孔では,腸内細菌により容易に敗血症性ショックを引き起こし,処置の遅延が多臓器不全に移行して予後の不良となること考えられ、
その死亡率が17.6%~29.4% 1)~4)と報告されていることからも重症疾患の一つである。
したがって、患者の病状からの適確な診断と治療が要となり、かつ、発症からオペまでのインターバルが,
患者の予後を大きく左右する因子の一つであると考えられる。
参考文献:
1)黒田久弥,伊藤彰博,井戸政佳ほか:大腸穿孔の予後判定と治療法の選択.日腹部救急医会誌 19:457―464, 1999
2)福田賢一郎,木ノ下修,永田啓明ほか:大腸穿孔症例における予後因子の検討.日消外会誌41:605―611, 2008
3)渡辺義二,鍋谷圭宏,松田充宏ほか:大腸穿孔例の治療成績―死亡例の検討を含めて.日腹部救急医会誌19:473―479, 1999
腸管穿孔の場合、通常は腸管内の内容物が腹腔内に広がり、腸管内容物に存在する細菌により周囲組織が感染し、汎発性腹膜炎を起こすことが多く、
緊急オペにて穿孔を閉じ、腹腔内の洗浄ドレナージ等が治療ステップであるようだ。
しかし、 xY 病院はこの時期、オペ室改装のためオペの実施は不可能であった。
そこで、 xY 病院の院長は、稲沢市民病院への転院手配と紹介状を書き、CT画像と共に今度は救急車にて緊急搬送された。
その際に持参した CT 画像が下記の画像となる。図2の右側、緑ラインの下腹部から、
図5の右側、緑ラインの胃までの範囲を5mm間隔スライス画像が図3&図4である。
穿孔が生じた場合の多くは、Free Air( 遊離ガス )の存在が確認できるとされ、父の腹部CT画像上でも数個の FA( Free Air )が確認できる。
図2.下腹部の断層画像(左側)と上下的位置の「緑ライン」( 右側 ) 【画像クリックで拡大表示】
図3.下腹部の図2 からの 5 mm 間隔毎の CT 画像 【画像クリックで拡大表示】
図4.上腹部の図5までの 5 mm 間隔毎の CT 画像 【画像クリックで拡大表示】
図5.上腹部の断層画像( 左側 ) と上下的位置の「 緑ライ ン」( 右側 ) 【画像クリックで拡大表示】
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2. 本当に腸管穿孔?
Maniatis・Chryssikopoulos らは、FA の場所により穿孔部位が推測できると報告しており,「胃では腸間膜間 FA を認めない,
大腸穿孔では骨盤内FA の出現率が高い」などの特徴を指摘している.
参考文献:
Maniatis V, Chryssikopoulos H, Roussakis A etal:
Perforation of the alimentary tract:evaluation with computed tomography. Abdom Imaging 25:373―379, 2000
さらに、遠隔画像診断のサイトでは
『 Free Airの部位と穿孔部位の相関 』として、『
・大量→胃十二指腸穿孔、大腸穿孔
・小網内(lesser sac)→胃後壁、十二指腸、腹部食道
・肝円索、肝鎌状間膜→十二指腸球部、胃
・後腹膜→十二指腸下行?水平脚
・腸間膜内→結腸、小腸
・骨盤内に限局→結腸、小腸
※横行結腸、食道下部からの穿孔は頻度が低い。
※盲腸の穿孔は腸閉塞、toxic mega colon で生じることがある。
※腹腔内に漏出した便塊を dirty mass sign という。内部に気泡を含み、腸管壁に囲まれない異常腫瘤である。』
とされている。
そして、『 消化管穿孔総論 ( 画像診断、画像所見) 』のフローチャートは下記の図としている。
表1.消化管穿孔のフローチャート 【画像クリックでリンク先へ】
出典:遠隔画像診断
http://遠隔画像診断.jp/archives/4666
★小網とは、
肝臓の下面を覆う腹膜を小網と呼び、胃の上部( 小弯 )と十二指腸の始部へと続いている。
胃に至る方を肝胃間膜 ( hepatogastric ligament )、十二指腸に至る方を肝十二指腸間膜 ( hepatoduodenal ligament )とし、
肝胃間膜と肝十二指腸間膜は,ともに肝臓の下面から胃と十二指腸表面に連続する間膜であり,この両者を総称して小網と呼ぶ。
以上の背景から、素人の筆者は、父のCT画像の Free Air の発生部位からは、小腸・大腸の穿孔は考えにくい。
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3. CT 画像の再検討
前述の腸管穿孔が疑わしいことから、ここで、再度CT画像を検証してみる。
例えば、
下記の参照画像( リンク先拡大画像下段 ) 内の△は穿孔の CT 画像を示唆する『壁断裂で穿孔部位を示しているのであろう』というものである。
参照:1 の
穿の孔の CT 画像
【画像クリックでリンク先へ】
出典:急性腹症の CT 演習問題
http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=391
また、下記の参照画像.のなかでの穿孔のCT画像を示唆する
中段の『図11~図13の↑は球部前壁の壁欠損像と思われ,その周囲壁は軽度だが浮腫性肥厚を示している( ▲ )ので十二指腸潰瘍穿孔と診断できる.』
としている。
参照:2 の
図穿孔の CT 画像 【画像クリックでリンク先へ】
出典:急性腹症の CT 演習問題
http://www.qqct.jp/seminar_answer.php?id=689
以上の所見を踏まえ、改めて父の CT 画像を診てみると、穿孔を示唆する「壁断裂」「壁欠損像」が下図に存在する。
図8.中右上のNo.2/図9.拡大時の3枚目の画像が最も凹状の壁断裂・壁欠損を示唆していると考えられる。また、No.1~No.3の画像には、FA ( Free Air )像が認められる。
図8.父の胃穿孔を示唆する CT 画像 【画像クリックで拡大表示】
図9.胃穿孔の部位( 断面 )とその腹部の上下的位置( 前面観 ) 【画像クリックで拡大表示】
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4. 基本的概念
そもそも、
『消化管穿孔による腹膜炎:
突然の激しい腹痛で発症します。通常腹部は板状硬といい、板のように硬くなります。
胸部・腹部レントゲンなどで腸管外の異常ガス像が認められれば消化管穿孔による腹膜炎と診断がつきます
。胃十二指腸潰瘍の既往がある方や、CT検査で胃・十二指腸壁の肥厚が確認された方は胃十二指腸潰瘍穿孔を強く疑うことができますが、
どの部位の穿孔なのか確定することは非常に困難です。胃十二指腸潰瘍穿孔と診断されても、発症直後で胃が拡張しておらず、
炎症反応もそれほどない場合は手術を回避し、鼻から胃へチューブを挿入し、食事をしばらく休むことによって経過を観察する場合もあります。
最近は胃酸分泌を強く抑制する薬剤( PPI )が登場して潰瘍穿孔は減少しています。しかしひとたび穿孔するとたいていの場合は緊急手術となります。』
『 腹腔鏡下手術:胃十二指腸潰瘍穿孔を強く疑う方で、発症からさほど時間が経過しておらず( 24時間以内が望ましい )、
全身状態が良好であり上腹部に手術の既往がない方は腹腔鏡で観察しながら手術を行います。
通常大網という胃からカーテン状に広がる脂肪を穿孔部に被覆固定する術式です。汚れた腹腔内を多量の生理食塩水で洗浄し、
ドレーンを挿入します。特殊な場合を除き原則的には術前に完全な確定診断は得られませんから、
診断が異なった場合、出血、腸管損傷などが起こった場合、
腹腔内汚染がひどくより徹底した洗浄ドレナージが必要と考えられた場合などは開腹手術に移行することがあります。』
『 開腹手術:小腸や大腸の穿孔による腹膜炎は、細菌性腹膜炎となりますから全身状態がより不良になる場合が多くなりますので、
一刻も早く原因を除去し、徹底した洗浄ドレナージをする必要があります。それゆえ治療法としてはそのほとんどが開腹手術となります。
原因は大腸癌に起因する穿孔や、憩室穿孔、外傷性穿孔、特発性穿孔などがあります。穿孔部位を同定し、原因を特定し、
状況に応じて穿孔部の縫合閉鎖、あるいは穿孔部を含む腸管切除を行い、腸管吻合を行います。すぐに消化管吻合を行うことが危険だと判断されるときには
、腸瘻や人工肛門などを造設することがあります。腹腔内を生理食塩水で十分洗浄しドレーンを留置します。』
出典:虎の門病院 消化器外科 上部消化管グループ( 食道・胃疾患 )
http://www.torages.jp/joubu/sinryou/misc/acutabd.htm
『 Lesser omentum (小網):
(肝門と胃小弯および十二指腸上部の間に張る前後2葉からなる薄い腹膜で、
胃の小弯から十二指腸の近位部( 幽門より 2cm 遠位 )と肝臓( 肝門縁と静脈管索のある裂隙深部 )とに付着したもの。
発生的に前胃間膜の一部である。右側端は肝十二指腸間膜といい、小綱の自由縁ならびに網嚢孔の前縁を形成し、
ここを胆路、門脈、固有肝動脈が通る。左側の広い部分は胃小弯とつらなり、肝胃間膜といい、網嚢の前壁を形成する。
なお小綱の右側端はしばしば、十二指腸の前面を越えてヒダとして下行して右結腸曲に達することがある。これを肝結腸間膜という。
小綱の左端部は肝臓から外れるので、ここでは小綱が胃と横隔膜を結ぶ形となる( 小綱の横隔胃部 pars phrenicogastrica )。』
出典:慶應義塾大学解剖学教室 Department of Anatomy, School of Medicine, Keio University
http://www.anatomy.med.keio.ac.jp/funatoka/anatomy/A10/A10_1.html
『 上部消化管穿孔が保存的に治療しうるかどうかは,侵襲側の条件,すなわち腹膜炎の重症度と,宿主側の条件,
すなわち宿主の抵抗力とによって決定される.したがって,保存的治療を行う場合,これらの条件を満たす必要がある.』
出典:岡村行泰、原田明生ほか「上部消化管潰瘍穿孔の手術適応判断におけるCT の有用性について」日消外会誌40(5):529~535,2007年
5. xY病院の誤診が市民病院にも継続
市民病院に搬送後、紹介状と CT 画像の情報に基づいて、緊急オペとなった。この市民病院でも「腸管穿孔のオペ」と判断され説明がされた。
そして、「高齢者のオペによる生命の危険性」「人工肛門の可能性」等のリスクの承諾を迫られ、同意書の捺印を求められた。
オペは、当然「腸管へのアプローチ」の前提での開腹。しかし、術中大腸、小腸、十二指腸と順に穿孔部位の発見を目指したが、
発見とはならず、単なる部位捜索に数時間が要したようだ。
数時間後、ようやく胃へのアプローチが始まり、胃の裏側の穿孔をオペ開始数時間後にやっと確認できたといった情けない事態。
単なる胃穿孔のオペ処置が筆者の第 5 胸椎 ~ 第 12 胸椎の固定オペ
( Spinal Instrumentation、Pedicle Screw & Rod / 通称 PLF ( Posterolateral fusion ) 後側方固定術)と、
ほぼ同等の手術時間を要したとは・・・・・。
やはり、長時間オペは「腸の穿孔」といた誤診に由来する、本処置開始までのタイム・ロス!の一言であろう。
術後の執刀医 Dr.Y の説明では、「今改めてCT画像を診てみると、胃穿孔の画像(凹のの壁断裂・壁欠損像)がある!」そして
「お父さんは、外科的処置以外の保存的治療の可能性もあったけど、手術の方が早く治るから・・・」等を正直に話してくれた。
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6. 課題
執刀医 Dr.Y は「このCT画像から、手術前に胃穿孔の診断ができるのは、画像診断専門の放射線医師に限るな」と、言い訳? というか、 無能さ?
ともいえる発言には驚いた。
また、術後の内視鏡検査時のオペの処置内容( 穿孔部の縫合閉鎖の痕 )の画像の提供をお願いしたが
、「 渡す必要はない!!」と断固拒否された( 看護師は OK とのことだったのに・・・・。でも、術前の CT 画像は2つ返事で提供してもらった。)。
自信がない?のか、手術が下手?なのか、それとも 手術ミスの証拠? となるのを恐れてなのか?
術前の画像は提供できるが、術後の画像の提供は断固拒否!といった医師の行動は、医療・医師に対する信頼性を低下させ不信感が増強されて、安心感の喪失に繋がる。
Dr. なのに、こうした事象が想像できないレベルの頭脳なのか? 多分、現在の情報化・ネット社会における、患者のアップロードによる Dr. 自身の未熟な手技画像の開示・露呈といった暴露が怖いのだろう。
筆者の脊椎損傷における一宮市市民病院⇒江南厚生病院での「転院」でも生じた『 情報伝達のリスク 』は、父親の穿孔でも形を変えて生じてしまった。
医療技術・医療設備が高度化し、投薬や検査等がID・電子化したとしても、誤診を含む情報伝達時のヒューマンエラーや過信が存在す以上、いつまでたっても包括的医療現場のリスクは回避できない。
結局、どの世界( 業界 )でも、スペシャリストは1割以下!っていうこを実感し、再認識した。
7. 下腹部激痛
2014年3月20日PM5:00頃、父親が下腹部の激痛を訴える。この日は、息子の帰省と快気祝いを兼ねての食事会( 焼肉 )予定日だった
。PM5:30頃に病院へ緊急搬送、病歴( 1月のオペ歴 )説明後、問診・触診をしてもらい、CT検査が行われた。
検査の結果は、不完全な腸閉塞( 完全ではない )。要は、腸閉塞に「なりかけ・ぎみ」といった状態で、緊急性はなく予後観察となった
。原因の一つとして、開腹時に腸の周りの粘液が減少し、高齢な患者ということもあり、腸の癒着等で腸の運動が十分に行われにくいことから
、腸内の残留物・ガスが停滞気味となったようだ。
そもそも、1月のオペでは、開腹前の腸管穿孔の診断の下、腸での穿孔部位の捜索でこの腸を必要以上に触っていると予想され
、負のスパイラルがさらに働いたものと考えられる。
結局、食事会はキャンセルとなった。
8. 謝辞
理解・納得できない事象は存在したものの、今回の父親の疾病で医師、看護師、家族の力といった [ 治療・看護・支援 ] が無ければ、今の父の健康はなかった。
諸先生方、看護師の皆様、そして妻に、心から感謝申し上げます。
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9. 番外リンク・資料
*
2012年 日本色彩学会第43回全国大会 in 京都大学 予稿原稿
*
CiNii 文献検索
*
J-GLOBAL 包括的文献検索
*
2012年 卒業研究論文 1/4(注:修正済&全編p200 4分割)
2/4 卒論
3/4 卒論
4/4 卒論
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2012年 早稲田大学卒業研究の大学評価
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近年の表彰状
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経歴
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公開日: 2014-03-20; 更新日: 2014-03-20;
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